数百万人の給与に関わる「10年ぶりの大改正」を、“一気通貫”で乗り切った「COMPANY」開発舞台裏
2026.06.03大手企業の人事労務を支える統合人事システム「COMPANY」を提供するWorks Human Intelligence(以下、WHI)にとって、法改正への迅速かつ正確な対応は、重要なミッションです。
2025年11月・2026年4月に、通勤交通費における非課税限度額が改定されました。法令の詳細が施行前夜に明らかになる不確定な状況下で、WHIは「施行当日からの運用」という圧倒的なスピードで対応し、お客様の安定的な業務運用を実現しました。 本記事では、法改正対応プロジェクトの中心を担ったエンジニア2名に、その舞台裏をインタビューしました。
通勤交通費グループに所属。
本プロジェクトでは、機能設計の根幹となる「機能カタログ」の作成や既存プログラムの言語化を担当 。
通勤交通費グループに所属。
本プロジェクトでは、マイルストーンの徹底管理や、コンサルタントと連携した顧客運用の深掘りを担当 。
1. 法改正対応─「日本の人事労務」を裏側から支えるミッション
ーまず、WHIにおける「法改正対応」とはどのような仕事なのか、改めて教えていただけますか?
佐野:WHIが提供する統合人事システム「COMPANY」は、日本の大手企業や官公庁など約1,200法人グループでご利用いただいており、その管理データ数は約570万人※にも及びます。数多くの人の「はたらく」を支える人事の基盤システムです。※2025年12月末時点の「COMPANY 人事」の契約ライセンス数合計
税制改正や育児介護休業法の改正、マイナンバー制度の導入など、人事労務に関わる法律は毎年、あるいは毎月のように変わります。法律が変わるということは、企業人事の「運用ルール」が変わるということです。この変更をシステムに落とし込み、法律施行後速やかにお客様が安定した業務を実現できるようにすることが私たちのミッションです。
佐藤:数百万人の給与計算を間違えるわけにはいきません。それだけの責任を背負って行う、とても重要なミッションです。
2. 既存システムにない「概念」を組み込む難しさ
ー今回お二人が中心となって対応された「非課税限度額改定」は具体的にどういった法改正内容だったのでしょうか?
佐野:今回の法改正では、自動車や自転車などで通勤する人の非課税枠が、「2025年11月」と「2026年4月」の2段階に分けて約10年ぶりに引き上げられました。
まず、2025年11月の第1弾では、通勤距離に応じた非課税限度額が一律で引き上げられました。そして、2026年4月に第2弾が施行され、距離に応じた「非課税枠の細分化」と、新たに「駐車場代が月5,000円まで非課税になる」というルールが追加されたんです。
佐藤:特に2つ目の「駐車場代が月5,000円まで非課税になる」ことへの対応は、とても大きな開発プロジェクトとなりました。「COMPANY」ではシステム内に駐車場代の「課税額と非課税額を分けて計算する」という概念自体がなかったんです。
ー概念がないところに新しいルールを入れる…。相当な難度だったのではないでしょうか?
佐藤:既存の機能を抜本的に変更する必要があり、難度はとても高かったです。しかも、今回は10年ぶりの大改正。社内でもナレッジが乏しい状態からのスタートでしたが、過去の改正時に当時の担当者が残していた資料等を読み解き、そのロジックをベースとして対応を進めました。
3.なぜWHIは迅速に正確に対応できるのか?──予測に基づく「先行リリース」と「一気通貫」の開発体制
ー既存システムにない概念を組み込むという技術的な難しさに加えて、法改正対応ならではの構造的な「難しさ」があるとお聞きしました。
佐野: 1つは「期日を後ろにずらすことが許されない」ことです。大手企業を中心に数百万人のお客様を支える製品ですので、多くの人の給与計算にダイレクトに影響が出てしまいます 。
佐藤:もう1つは、「施行直前まで法令の詳細が未確定な中で、開発を進めなければいけないこと」です。今回、行政から最終的な数字や条件が提示されたのは、施行前日の3月31日の夜でした 。そこから開発を始めていては、4月1日の利用開始に間に合わせることは極めて困難です。
ー施行日の前夜に詳細が決定するというスケジュールの中で、遅延なく最速での機能リリースを実現できた背景には、どのような開発体制の工夫があったのでしょうか?
佐藤:私たちがいるグループが主担当として、機能の要件定義から始まり、実装、テスト、そしてお客様へのデリバリーに至るまでの一連の開発工程を「一気通貫」で行ってたことです。開発工程が複数チームに跨ると、どうしても他チームとのコミュニケーションコストが発生します。一気通貫の体制であれば、認識のズレなどによる手戻りが発生しにくくなります。
佐野:また、改正内容の予測に基づいた先行リリースも行っています。2月末から3月頭には、大規模な修正を先行してリリースしました。これにより、施行前夜に確定した法令内容の数値をシステムに反映するだけで対応が完了するようなしくみを整え、最速でのデリバリーを実現できるようにしました。
施行内容の予測をするうえでは、社内の法定業務のエキスパートや有識者と連携し、過去の運用や国税庁のお知らせなどを読み解いて、解釈をギリギリまで詰めています。
ーその「法解釈」を実際のシステム(コード)へ落とし込むプロセスには、どのようなハードルがあるのでしょうか?
佐野:単に条文を読むだけでなく、「既存のプログラムが現在どのようなステップで何をしているのか」を正確に言語化し、どこにどう手を入れれば法律通りの動きになるのかを設計段階で徹底的にすり合わせています。
条文が言っていること自体は理解できても、既存の仕様がある中で、「今のロジックに落とし込むには現在の仕様上どうしても難しい」という壁にぶつかることがよくあります。
法律で要求されていることを実現するためには、単に法律の条文を翻訳(言語化)するだけでなく、「実際のプログラムが今何をやっているのか」を言語化する作業が必要になります。
自分が今触ろうとしているプログラムが「どういうステップで、どこで何をしようとしているのか」を細かく自分の言葉で説明できるようになることが、実は一番大変でした。
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─ 一気通貫で作り上げたプロダクトを、実際にお客様へ届けるフェーズ(他部門との連携)はどのようになっているのでしょうか?
佐藤: 開発の基本工程は一気通貫で完結させつつも、リリース後のお客様への利用案内といったアフターフォローの面では、コンサルタントやサポートセンターなどフロント部門に連携しています。
佐野: そもそも、私たち開発チームがシステムを作ってデリバリーできたとしても、それはスタートラインに立ったに過ぎません。そこからお客様へ適切に案内してくれるコンサルタントやサポートセンターの協力があってこそ、初めて製品としてお客様に価値をお届けできます。
4.法改正対応を通じた開発者のやりがい
──お客様の声と、WHIに根付くドメイン文化
ーフロント部門とワンチームで連携し、お客様へ価値を届ける。法改正対応ならではの「やりがい」や「面白さ」はどこにありますか?
佐藤: 会社全体で連携して法改正対応を乗り切ったという一体感にやりがいを感じました 。法改正対応は、開発だけでなく、QA(品質管理)、コンサルタント、サポートセンターなど、様々な部門が密に連携して初めて完了するプロジェクトです 。
何より嬉しかったのは、コンサルタント経由でお客様から「『COMPANY』の対応が最速だよ」という言葉をいただいた瞬間です 。施行日当日や翌日には安定して運用いただける状態を目指して進めてきたので、あの時はチーム全員でとても喜びましたね 。
佐野: 実装の観点で言うと、複雑なルールを、既存のシステムを崩さずにどうきれいに当てはめるかという「パズル的な面白さ」です 。また、自分が開発した機能が多くのお客様にご利用いただけることは、エンジニアとして身が引き締まると同時に大きなやりがいを感じます。
ーまさに「一気通貫」で、お客様の業務の最深部まで入り込んでいるからこその言葉ですね。
佐藤: そうですね。WHIでは、開発者が自らお客様の利用想定の議論に参加し、お客様の業務を深く理解することを大切にしています 。開発者の「ドメイン知識(お客様の業務知識)」の深さが、最適な仕様の判断へと繋がるからです。
佐野: 大手企業のお客様にとって本当に使いやすい最適な製品を作るために、私たちエンジニアはただコードを書くだけではなく、お客様の業務を誰よりも深く知る必要があります 。WHIには、お客様のためによい製品を作るため業務を深く知る文化が根付いています。
ー未確定な状況下で進められた今回の法改正対応においても、そうしたお客様への理解や情報収集の活動は活かされたのでしょうか?
佐藤:品質保証については、コンサルタント経由で現在の運用状況をヒアリングしました。そこから「お客様が現在こういう運用をしているなら、新機能ではこういう使い方を想定するだろう」という議論と積み重ねを行い、テストケースに落とし込みました。
当社の製品は、プログラムの個別変更を行わない「ノーカスタマイズ」をコンセプトとしています。そのため、特定の1社の運用だけに合わせることはしません。だからこそ、多くのお客様の様々な要望や運用を広く把握し、デフォルトの利用想定を定義した上で、「『COMPANY』としてどういう仕様にするべきか」を深く掘り下げて決定しています。
5.問題解決を追求できるエンジニアへ、そして「COMPANY」をよりよい製品へ
ー最後に、今回の大きなプロジェクトをやり遂げたお二人の、今後の目標やプロダクトにかける想いをお聞かせください。
佐藤:今回のプロジェクトを通じて、改めてドメイン知識を持つことの重要性を身に染みて感じました 。この知識をさらに強化し、日々の開発業務に活かしながら、お客様がご不便を感じることなく安心して「COMPANY」を使い続けられるようにしていきたいです。
佐野:私は、単にソースコードを書くだけでなく、根本から「問題解決を追求できるエンジニア」としてより成長していきたいです 。そして、私たちが作ったプロダクトをリリースすることは、あくまで「スタートライン」だと思っています 。フロントに立ってお客様へ価値を届けてくれるコンサルタントやサポートセンターの仲間がいるからこそ、初めて製品として完成する。これからも全社で手を取り合って、より良いものをお届けしていきたいですね 。